今回は、安宅和人の書いた『イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」』をご紹介します。イシューという本質を見抜くことの重要性とその方法を教えてくれる一冊です。社会人として仕事をこなしていくには必要な内容ばかりなので、この記事で簡単にご紹介いたします。

前職の教員時代に読んでおけば、効率の良い会議や授業内容が見出せたかもしれません・・・。もっと早く読んでおけばと後悔した本です!
①本の概要|なぜこの本は多くのビジネスパーソンに刺さるのか
『イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」』(安宅和人 著)は、単なる仕事術や思考法をまとめた本ではありません。この本が扱っているのは、「知的労働における努力の方向性」そのものです。
私たちは普段、
- もっと効率よくやろう
- スピードを上げよう
- 正確にこなそう
といったことに意識を向けがちです。しかし著者は、その前提自体を疑います。
そもそも、その仕事はやる価値があるのか?
その問題を解くことに意味はあるのか?
もし「解くべきでない問題」に時間を使っていたとしたら、どれだけ努力しても成果は出ません。
この本の核心は、**「生産性=アウトプット ÷ 投入した時間・労力」というシンプルな計算式にあります。多くの人は、分子である「アウトプット」を増やすために、分母の「時間」をひたすら増やそうとします。しかし、著者はそれを「犬の道(報われない努力の道)」と呼び、厳しく戒めています。
本書は、「正しく頑張るためには、まず“問い”を正しく立てよ」という一点を、圧倒的な説得力で示してくれます。
真に生産性を上げるには、闇雲に動くのではなく、「今、本当に答えを出すべき問い(=イシュー)」を見極めることから始めなければならない。本書は、そのための具体的な思考法を説いた一冊です。
そもそもイシューとは何か?|「問題」との決定的な違い

本書で使われる「イシュー(Issue)」という言葉は、日常的に使われる「問題」や「課題」とは意味が異なります。
イシューとは、下記のようなことです。
- 答えを出すことで状況が大きく前進する問い
- 本質的で、避けては通れない根本問題
- 解く価値が明確に存在する問い
たとえば、
- 売上を伸ばす方法を考える
- 作業効率を改善する
これらは一見「問題」に見えますが、
イシューであるとは限りません。
本当に問うべきなのは、
- この市場に投資し続ける意味はあるのか?
- その業務自体が本当に必要なのか?
といった、一段深い問いのことです。
私たちは、目の前に現れた「何となく重要そうな問題」にすぐ飛びついてしまいがちです。しかし、実は世の中にある問題の9割以上は、今すぐ解く必要のない「偽のイシュー」です。
「何をやるか」ではなく「何をやるべきか」を明確にする。 この「問いの質」を上げることこそが、仕事の成否を分ける最大の要因となります。

表面的な問題ではなく、まずはその問題の存在意義を考え、何を追求するべきなのかを知る必要があるのですね!
イシューを見極める方法|情報収集と仮説ドリブン思考
では、その重要なイシューはどのように見極めればよいのでしょうか。本書で特に重要とされているのが、情報の扱い方と仮説ドリブンという考え方です。
情報は「量」ではなく「構造」を見る
イシューを見極める際、いきなり分析を始めてはいけません。まずは「一次情報(現場の声や生のデータ)」に触れ、次にインターネットや文献で既存の情報を網羅的にリサーチします。
ただし、ここで注意が必要なのは「調べすぎないこと」です。情報の収集に時間を使いすぎると、思考が停止してしまいます。多くの人が情報はあればあるほど良いと考えますが、それでは
- 情報が増えるだけ
- 判断軸が曖昧になる
- 本質が見えなくなる
と、必要な情報が霧のように漂いうまく整理できなくなってしまいます。
重要なのは、
- 専門家が本当に議論している論点は何か
- 意見が分かれているポイントはどこか
- まだ答えが出ていない争点は何か
必要な情報の柱を見つることで、より建設的で具体的な内容を作り上げることができるのです。 「ある程度の材料が揃った」と感じた瞬間に、次のステップへ移る勇気が重要です。
仮説ドリブンで考えると、思考は一気に研ぎ澄まされる
イシューを見極める上でもう一つ重要なのが「仮説を立てること」です。
- 「おそらくこうだろう」という仮説を立てる
- 完璧な答えを最初から探さない
- その仮説を検証するために情報を集める
上記のようにあえて先にスタンスを決めます。 仮説を立てることで、調べるべき項目が絞られ、情報の取捨選択が圧倒的に速くなります。
- 悪い例:「市場の動向について調べてみよう」
- 良い例(仮説):「市場は縮小傾向にあるが、特定の高単価層だけは拡大しているのではないか?」
このように「問い」を具体的にすることで、初めて「答え」を出すためのロードマップが見えてくるのです。そうすることで「考えているのに進まない」状態から抜け出せるようになります。イシューとは、偶然見つかるものではなく、仮説を持って考え続ける中で浮かび上がってくるものなのです。

情報はある程度収集したらそこで打ち止めにし、仮説を立てることで問題の本質に輪郭がもたれるものなのですね。
現代における無駄とは何か|イシューのない会議の正体
本書を読んで、多くの人が思い当たるのがイシューのない会議・仕事の無駄の多さでしょう。
イシューのない会議に共通する特徴
- 会議の目的が曖昧
- 何を決めるのかが共有されていない
- 意見は出るが、結論が出ない
- 「次回に持ち越し」で終わる
こうした会議は、参加者に「仕事をした感覚」だけを残します。しかし実際には、何一つ前進していないことがほとんどです。イシューがない会議は、目的地のないドライブのようなものです。ガソリン(時間と労力)を浪費するだけで、どこにも辿り着きません。
イシューがあると、会議と仕事はどう変わるのか
一方、イシューが明確な会議では状況が一変します。
- この会議で答える問いが明確
- 必要なデータや視点が整理されている
- 議論がブレない
- 結論、もしくは次のアクションが必ず決まる
同じ1時間でも、生み出される価値はまったく違います。著者が指摘する現代の問題は、人が怠けていることではなく、イシューのない努力が蔓延していることです。逆に、イシューが明確であれば、たとえ短時間の会議であっても、組織は劇的に前進します。
まとめ|「イシューからはじめる」ことが人生の密度を変える
プロフェッショナルとして生きるということは、「どれだけ長く働いたか」ではなく、「どれだけ価値のある変化を起こしたか」で評価されるということです。
もしあなたが今、山積みのタスクを前に立ち尽くしているのなら、一度ペンを置いて自分に問いかけてみてください。 「今、自分が解こうとしている問いは、本当に解く価値があるものか?」
「イシューからはじめる」ことは、最初は勇気がいります。周りが忙しそうに動いている中で、一人立ち止まって考えるのは不安かもしれません。しかし、その立ち止まる勇気こそが、あなたを「犬の道」から救い出し、圧倒的な成果へと導いてくれる唯一の鍵なのです。
忙しいのに成果が出ない。考えているのに前に進まない。もしそう感じているなら、この本は「努力の向きを正す」強力な一冊になるはずです。

