スティーヴン・キング『書くことについて』感想|文章を書く技術と、書くことの本当の意味

小説

人は、どうして物語を書くのでしょうか。

自分が経験したことを誰かに伝えるためでしょうか。それとも、現実には存在しない世界を想像し、それを文章にすることが楽しいからでしょうか。あるいは、言葉にすることでしか表現できない何かを、自分の中から取り出したいからかもしれません。

小説を書くという行為は、決して効率のいいものではありません。一つの物語を完成させるためには、膨大な時間と労力が必要です。

それでも世の中には、物語を書き続ける人たちがいます。そして、その中でも特に多くの物語を生み出してきた作家の一人が、スティーヴン・キングです。

『シャイニング』『IT』『ミザリー』など、数々の作品を世に送り出してきたキングは、世界的なベストセラー作家として知られています。

今回は、スティーヴン・キングが物語を書くための原点と、書くことに秘められた思いが綴られた一冊『書くことについて』をご紹介します。

本書は、キング自身の人生を振り返る自伝であると同時に、物語を生み出すための具体的な技術書でもあります。そして何より、「書くこととは何なのか」を考えさせてくれる一冊です。

📚 『書くことについて』はこんな人におすすめ!
✔ 文章力・推敲力を本気で上げたい人
✔ 執筆や創作のモチベーションを高めたい人
✔ スティーヴン・キングのファン
✔ 退屈な理論書ではなく、面白い文章本が読みたい人
比企ちゃん
比企ちゃん

様々な作品が映画化されているスティーヴン・キング!私は『IT』の独創的なホラー展開が恐怖を覚える以上に楽しく見ていました!

1.スティーヴン・キングとはどんな人?

少年時代から物語を書いていた

スティーヴン・キングは、1947年9月21日にアメリカ・メイン州ポートランドで生まれました。

幼い頃に両親が離婚し、兄のデイヴィッドとともに母親のもとで育ちます。その後、一家はコネチカット州などを経て、キングが11歳の頃に再びメイン州へ戻りました。

キングは幼い頃から物語に強い興味を持っており、本人の回想によれば、6、7歳頃には漫画のコマを書き写し、そこから自分で物語を作っていたといいます。また、学校を休んでベッドで過ごしていたときにも、物語を書いて時間をつぶしていました。ホラー映画やラジオドラマにも夢中になり、子どもの頃から「怖いもの」と「物語」はキングにとって身近な存在だったようです。

スティーヴン・エドウィン・キング 引用:Wikipedia

11歳の頃、母親がクリスマスプレゼントとして古いRoyalのタイプライターを買ってくれました。

そのタイプライターを使って、キングは物語を書き始めます。1960年、まだ少年だったキングは、自分が書いた作品を『スペースメン』という雑誌に投稿しました。

作品のタイトルは本人も覚えていません。しかし、その頃のキング自身が当時好きだったSF的な作品の影響が色濃く表れていたようです。作品は採用されませんでしたが、原稿は捨てられませんでした。

後にキングの作品を保管していた人物の手元に残り、約20年後、ロサンゼルスの書店で偶然キング本人のもとへ戻ってきます。キングが少年時代にRoyalのタイプライターで打った原稿が、長い年月を経て本人の前に現れたのです。

「書いて、送る」を繰り返した青年時代

キングはその後も、書くことをやめませんでした。作品を書いては出版社や雑誌に送り、掲載を目指すということを繰り返していきます。

『The Glass floor』 引用:Steven King

大学時代にはメイン大学オロノ校で英文学を学びながら、大学新聞『The Maine Campus』に毎週コラムを書くなど、文章を書く機会を積極的にもっていました。そして1967年、キングは短編「The Glass Floor」をSF・ホラー系の雑誌『Startling Mystery Stories』に売り、初めてプロとして作品を発表します。まだ世界的なベストセラー作家になるずっと前のことです。

大学を卒業したのは1970年。英語教師の資格を得ていましたが、すぐに教師の仕事が見つかったわけではありません。そこで洗濯工場などで働きながら、空いた時間に文章を書き続けます。1971年には大学時代に出会ったタビサ・スプルースと結婚し、その年の秋からメイン州のハンプデン・アカデミーで高校の英語教師として働き始めました。生活は決して余裕のあるものではありませんでしたが、キングは仕事の合間を縫って短編や長編小説を書き続けました。

ここで重要なのは、キングが最初から「小説家として成功する」と決めていたわけではないことです。教師として働き、洗濯工場でも働き、家族との生活を支えながら、それでも書くことを続けていました。作品を書けば必ず世に出るわけではありません。それでも、書いて、送って、また書く。その繰り返しが、少しずつキングを作家へと近づけていったのです。

『キャリー』が人生を変える

そんな生活の中で生まれたのが、キングの代表作の一つである『キャリー』です。

『キャリー』 引用:Amazon

きっかけとなったのは、キングが高校教師や学校の用務員として働いていた頃に見聞きしたことや、学校という閉ざされた空間の中で起こる少年少女の残酷さでした。キングは、いじめられている少女と超能力という二つのアイデアを組み合わせ、物語を書き始めます。

ところが、キングは書き始めた『キャリー』を途中で投げ出してしまいます。わずか数ページを書いたところで、自分にはこの物語をうまく書けないと思い、原稿をゴミ箱へ捨てたのです。

しかし、それを妻のタビサが拾い上げました。そして「続きを書いて」とキングを励まします。キングはもう一度原稿に向き合い、作品を完成させました。

完成した『キャリー』は出版社Doubledayに送られ、1973年に出版が決定します。翌1974年に刊行されると大きな反響を呼び、キングは作家として本格的に活動していくことになります。本人にとっても、この作品の成功は「文章を書いて生活する」という道を現実のものにする大きな転機でした。

世界的な作家へ

『キャリー』以降、キングは『呪われた町(’Salem’s Lot)』『シャイニング』『ザ・スタンド』『デッド・ゾーン』『IT』『ミザリー』など、数多くの作品を発表していきます。

ホラーを中心としながらも、ファンタジー、SF、サスペンス、ミステリー、犯罪小説など幅広いジャンルを手がけ、その作品の多くが映画やテレビドラマにもなりました。現在までに60冊を超える著書と200作を超える短編を発表しているとされ、世界でもっとも広く読まれている作家の一人となっています。

しかし、ここまでの人生を振り返ってみると、キングの出発点は意外なほど小さなものでした。

少年時代、母親から贈られた古いタイプライターに向かい、まだ誰にも知られていない物語を書いた。そして作品を雑誌へ送り、断られてもまた書く。

その積み重ねの先に、『キャリー』があり、さらにその先に世界的な作家としての現在があります。

『書くことについて』が興味深いのは、そんな「成功した作家」の現在だけを見るのではなく、成功するずっと前のキングの姿まで振り返りながら、書くことについて語っているところです。そこには、才能だけで作家になった人物の姿ではなく、何度も書き、読み、失敗し、それでもまた机に向かった一人の人間の姿があります。そして、その経験から語られる「文章を書くための技術」には、これから文章を書こうとする私たちにも通じるものがあります。

作家として評価されたい気持ち以上に、キングにとって書くことがとても楽しく、自身の一部のような存在だったからこそ、一流作家として成功を収めた姿に感服です。

2.書くための具体的な技術

『書くことについて』は、スティーヴン・キングの人生を語るだけでなく、キングの書く技術をしっかりと記録しています。

特徴的なのが、キングが小説を書くための技術を、決して難しい理論や複雑なルールとして説明していないことです。むしろ、余計な言葉を削ること、描写を選び抜くこと、そして物語の意味を最初から決めつけないことなど、文章を書くうえで基本となる考え方が語られています。

これらは小説を書く人だけでなく、ブログやエッセイを書く人にとっても役立つものではないでしょうか。ここでは、私自身が読んでいて特に参考になった技術を3つを紹介します。

文章を書くときは、余計な言葉を削る

何かを書く時には、自分にストーリを語って聞かせればいい。手直しをする時に一番大事なのは、余計な言葉を全て削ることだ(p72抜粋)

キングが編集者のジョン・グールドから教わった言葉です。

文章を書くとき、登場人物の容姿を細かく説明したり、比喩を使って表現を華やかにしたり、物語に関係のない情報まで盛り込んだりしてしまいます。もちろん、そうした描写が効果的に働くこともあります。しかし、文章を豊かに見せようとするあまり、かえって伝えたいことがぼやけてしまう場合もあるのです。

大切なのは、文章を飾ることそのものではなく、読者に伝えたい物語や内容を、できるだけ的確に届けることです。

書き手にとっては思い入れのある表現でも、物語を伝えるうえで必要がなければ、思い切って削る。自分が書いた文章だからといって、すべてを残そうとする必要はありません。

文章を上手に書くというと、気の利いた表現や美しい言い回しを思い浮かべるかもしれません。けれども、キングの言葉から学べるのは、何かを付け足すことだけでなく、必要のないものを取り除くことも、文章を磨くための重要な技術だということです。

細部を描き込むより、背景や雰囲気を伝える

読者が物語の世界に浸っているという実感を得るためには、登場人物の身体的特徴よりも、背景や雰囲気を伝えることの方がずっと重要である。(p232抜粋)

これは前節で述べたことに大きく共通しています。

登場人物の髪の色や目の形、服装などが詳しく説明されることがあります。ただ、そうした情報を大量に与えれば、必ずしも読者の想像力が刺激されるわけではありません。

むしろ、少ない言葉でその場の空気や状況を伝えたほうが、読者は自然と頭の中で情景を思い描けることがあります。

たとえば、古い家の中を描写するとき、壁の色や家具の形を一つずつ説明するよりも、床板がきしむ音や、長いあいだ閉め切られていた部屋に漂うかび臭さを描いたほうが、その場所の雰囲気が伝わるかもしれません。

すべてを説明する必要はなく、読者が情景を想像するための手がかりを、適切に選んで提示すればよいのです。

キングの考え方で興味深いのは、優れた描写とは、たくさんの情報を詰め込むことではなく、選び抜かれた少数のディテールによって成立するという点です。

だからこそ、推敲が重要になります。

推敲とは、書いた詩や文章の字句や表現を十分に吟味して、よりよいものにするために何度も練り直すこと。

自分が書いた文章を読み返し、本当に必要な描写は何か、反対に、なくても情景が伝わる部分はどこかを見極めていくのです。

文章の豊かさは、情報の多さだけで決まるわけではない。

この点は、書くことを考えるうえで覚えておきたい教えです。

テーマを先に決めず、まずは物語を書く

なんらかの問題意識やテーマにもとづいて書くというのは、駄作のレシピである。優れた小説は必ずストーリーに始まってテーマに終わる。(p279抜粋)

キングは、問題意識やテーマを出発点にして小説を書くことについて、「駄作のレシピ」だと厳しい言葉で表現しています。

キングが重視しているのは、最初から伝えたい結論を決めて物語を組み立てるのではなく、まず物語を書き、その中から浮かび上がってきたテーマを見つけることです。

たとえば、「人間の本当の恐ろしさを描きたい」「人は過ちから学べるのかを問いかけたい」といったテーマを最初に決めると、登場人物の行動や物語の展開が、その結論を説明するためのものになってしまう可能性があります。

物語そのものが持つ意外性や、登場人物が自然に動くことで生まれる展開を、書き手自身が狭めてしまうのです。

キングはまず物語を書き進め、初稿が完成してから読み返すことで、そこにどのような意味や共通する問題意識が表れているのかを探っていきます。

書き終えたあとで初めて、自分が何を描こうとしていたのかに気づくこともあるのです。そして、そのテーマを次の推敲でより明確にしていきます。つまり、テーマは物語を書く前に用意しておく答えというよりも、物語を書いた結果として発見されるものでもあるわけです。

物語を書く出発点とは、問題提起をしたい意思よりも、自分の考えた世界を作り上げたいという創作意欲ではないかと思います。

本を読む方は一度は自分の小説を書いたことがあるのではないでしょうか。私もその一人です。物語を書く時にテーマを先に決めたことはありません。他の小説に感化され、自分も独自の物語を作りたいと思い筆を走らせただけで、根底のテーマなど存在しませんでした。

テーマにとらわれず自由に書いた後、物語から得られるメッセージを見つけ、推敲によってそれが明確となる。テーマ作りの順番を間違えてはいけないですね。

書くことは、すでにわかっていることを伝えるだけでなく、書くことによって自分自身の考えを発見していく行為でもあるのです。

小説家でなくても、何かを創作したいと思った時に参考になる方法かもしれませんね。

3.キングの人生において、書くこととはどんなことなのか

書くことは、何かを手に入れるための手段ではない

ものを書くのは、金を稼ぐためでも、有名になるためでも、もてるためでも、セックスの相手を見つけるためでも、友人を作るためでもない。一言で言うなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生を豊かにするためだ。(p358抜粋)

彼の考え方によれば、それらは書くことの本来の目的ではありません。お金を稼ぐため、有名になるためといった外側の報酬を第一の目的にするのではなく、まずは書くことそのものに価値を見いだしているのです。

思えば、キングは少年時代から物語を書き、作品を雑誌に投稿し、思うような結果が得られなくても書き続けてきました。まだ誰もが知る作家ではなかった頃も、教師として働きながら生活を支えていた頃も、彼は執筆を続けていました。

その歩みを振り返ると、書くことは成功するためだけの手段ではなく、キング自身の人生に深く根づいた行為だったのだと感じます。

書くことが人生を豊かにする

物語を書くという行為は、登場人物を考え、出来事を組み立て、言葉を選び、何度も書き直していく。その過程では、自分が何を面白いと感じるのか、何を恐れているのか、人間をどのように見ているのかといった、自分自身の感覚や考えと向き合うことにもなります。

書き始める前には漠然としていたものが、文章にすることで少しずつ形を持ちはじめる。そうした経験もまた、書くことがもたらす豊かさの一つではないでしょうか。

そして、完成した文章を誰かが読むことで、今度は読者の人生にも何かが生まれます。物語に夢中になって現実を忘れる時間があったり、登場人物の生き方に自分を重ねたり、これまで考えたことのなかった問題に気づかされたりすることもあります。

書き手が生み出したものが、読む人の心に届き、その人の世界をほんの少し広げる。キングが語る「読む者の人生を豊かにする」とは、そういうことなのかもしれません。

自分が書くことによって何かを発見できた。自分の考えを整理できた。そして、その文章を読んだ誰かが何かを感じてくれた。そうした経験そのものに価値を見いだせるなら、書くことは結果だけに左右されないものになります。

お金や名誉は、書き続けた先についてくるだけ

もちろん、作家として生計を立てるためには、お金も必要です。

作品が評価されることや、多くの読者に届くことにも大きな意味があります。

キング自身も、作家として成功したことで、書くことにより多くの時間を使えるようになったはずです。だからこそ、お金や名誉を求めること自体が悪いわけではありません。大切なのは、それらを何よりも先に置くのか、それとも自分が大切にしていることを続けた結果として受け取るのか、という違いなのだと思います。

書くことが好きだから書く。

物語を考えることが楽しいから書く。

自分の中にあるものを文章にしたいから書く。

その積み重ねの先に、読者からの評価や収入が生まれることもあるでしょう。キングの言葉からは、そうした順序を大切にする姿勢が伝わってきます。

お金や名誉は人生を豊かにする要素の一つですが、それだけが豊かさのすべてではありません。自分が夢中になれることを持ち、それを通じて自分自身や誰かの人生を豊かにできる。そのこと自体が、すでに一つの幸福なのだと思います。

4.まとめ|書くことは、自分と誰かの人生を豊かにする

スティーヴン・キングの『書くことについて』は、小説を書くための具体的な技術を学べる本であると同時に、書くことそのものの意味を考えさせてくれる一冊です。

余計な言葉を削ること、必要な描写を選び抜くこと、そして最初からテーマや結論を決めつけず、まずは物語を書いてみること。キングが教えてくれる技術は、どれも特別に難しいものではありません。しかし、実際に文章を書くときには、つい忘れてしまいがちな大切なことばかりです。

『書くことについて』を読み終えて、改めて考えさせられたのは、文章を書くことの価値は、必ずしも誰かから評価されることだけにあるのではない、ということです。

書くことによって自分の人生が豊かになり、その文章を読んだ誰かの人生も豊かになる。もしそんな瞬間を生み出せるのなら、文章を書き続けることには十分な意味があるのではないでしょうか。

これからも、結果だけにとらわれず、自分が面白いと思ったことや、誰かに伝えたいと思ったことを、自分なりの言葉で書き続けていきたいと感じました。

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