先日,Twitterの読書家アカウントの人のつぶやきを見ていたら,この本が多く紹介させられていました。それが題名にもあるとおり,辻村深月さんが2022年の9月に出版した『傲慢と善良』です。

帯に「人生で一番刺さった小説」と大々的に紹介されていますが,読破してから,私もそれに近い印象をもちました。どうして心に刺さるかというと,この小説が恋愛や結婚に対して皆がもっている曖昧な考えに答えを示してくれているからだと思います。
読み終えた頃に,あなたはどんな感想をもつのか。そんな小説をレビューしていきます。
あらすじ
西澤架(にしざわかける)の元から婚約者の坂庭真実(さかにわまみ)が姿を消す。それが起こる予兆は前からあった。それは真実にストーカーが付き纏われている事実だ。仕事の帰り道に誰かに尾けられている気配があったり,消したはずの部屋の電気が帰ってくると付いていたりと,無論ストーカー被害を架が知らないわけはなく,けれど警察に相談するなどといった対処をしなかった。その結果だった。
ストーカーの誘拐を前提に架や真実の両親と共に捜索を始める。真実の地元の群馬に行き,架に出会う以前に利用していた結婚相談所に赴き,相談所を運営している老婦人の小野里に話を聞く。すると,相談所で紹介を受けて実際に真実と会った男性二人の存在を知ることになる。
もしかして,この二人のどちらかがストーカー犯なのか?
至る所に疑念があり,それを一つ一つ解消するために,二人の男に会うことを決意する。
しかし,疑念が一つずつ晴れるに伴って,ストーカー犯に対する疑念が新たに浮上していく。
そして物語は予期せぬ展開へと向かっていく・・・・・。
ネタバレなしの記事にしたいので,あらすじはここまででだいぶ簡潔されたものとなっているのはご了承ください。
上記で述べたように,これは恋愛や結婚に対する考えを覆されるからこそ,読む人にとっては心が痛むものとなるかもしれません。実際,私自身が自分自身を回顧して後悔と自責の念に駆られました・・・・・。
この物語の魅力
この物語は,情報に溢れまた出逢いにも溢れた現代社会で生きづらさを感じた登場人物たちが,それぞれの悩みを抱えつつ,それがしっかりと解消されるわけではないけれど自分なりに決着をつける恋愛小説です。では,そんな話がどうして読者の胸に刺さるのか。物語の魅力を2つに分けてお伝えします。
「良い意味」でよくある男女の恋愛劇への共感

昔から幸せの形として「結婚」が挙げられます。それは家系を繋いでいくための形式的なお見合いから,お互いに対して愛を感じて一生を添い遂げるラブストーリーまで,形は様々ですが最終的には結婚という一つのケジメのようなものを通過していきます。それを通過する前に別れることがはっきりいって大半でしょう。
しかし,現代は「晩婚化」と呼ばれる時代。全ての人々が結婚を選択するわけではなく,夫婦になるための籍は入れずにカップルとしてのお付き合いを選ぶ方々だったり,旦那や奥さん,子どもという関係が自分にとっては不要で一人で生きることを決意する方だったりと,何も結婚しないことが悪い選択肢でなくなりました。日本は未だに良い歳の大人が未婚だと少し憐れんだり疎んだりしがちです。もう少し,結婚しない選択肢に理解を示す必要があると思います。
女性の真実も口にはしないものの,恋愛や結婚に対しての考えをもってはいる。しかし,いくつか出会いを見つけてもその男性ではしっくりこない。しっくりこない理由を見つけることはできずにいたが,そこに架が現れ,本当に素敵な男性に出会ったと思っていた。だからと言って,架に対して不満一つも出てこないわけがありません。みんなそうですよね。
対して架はどうかというと,亡くなった父から継いだワインの輸入会社の社長で,ルックスも良く交友関係も広いいわば「イケメンエリート社長」な訳です。若い時に付き合っていた彼女も可愛くて人柄も素敵だったのですが,架よりも若いのに結婚に対して現実的で,早く結婚したい欲望をもっていました。そんな彼女の結婚願望を重いと思った架は別れを決めたのですが,久しぶりに彼女のSNSを見たら結婚した報告とウェデングドレスに身を包む写真を見てしまい,少しの後悔が残りました。そして,マッチングアプリを通して多くの女性と出会いましたが,グッとくる相手に出会えず,40手前になってようやく見つけたのが真実だったのです。
この架を知って最初にもった印象は「いやまんま自分じゃないか!」です。
私自身も当時お付き合いしていた女性の結婚願望が重いと感じてしまい別れましたが,結局自分が彼女を追いかける形で引きずってしまい,当の彼女はというと自分と別れた半年後に結婚していました。そして今現在も独り身です・・・・・。
いやまさか,架が自分を鏡で映したような恋愛歴をもっていて,作者の辻村深月さんは私のことを知っているのか!?とまで思ってしまうほどの衝撃を受けました。(ルックスに関しては何も言わないでください)
逆に女性は,真実に対して共感を覚えるのではないでしょうか? こんな恋愛自分だけじゃないかと思っていたけれど,実はこんな恋愛譚はよくあることなんだと感じました。だからこそ,この男女に共感をもたないわけはなく,物語も自分のことのように没頭できるのだと思います。
誰しももっている恋愛観や結婚観に深く刺激を与えるストーリー

きっと誰もが理想的な出逢い,そして理想的な異性に出会うことを求め,それを運命の出逢い,なんて大層な名前をつけていますよね。
理想の相手に出会いたいと思うのはそれこと人の性(さが)ですよね。だから,グッとこない人には心が動かされることはありません。
しかし,良いと思う・グッとくる人の基準とは一体なんなのだろう。その答えはいくら自問しても見つかってはいませんでした。この小説を読むまでは。
結婚相談所の小野里は,グッとこない正体は「その人が自分につけている値段」と語っています。
「値段,という言い方が悪ければ,点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら,何点とつけた点数に見合う相手がこなければ,人は,”ピンとこない”と言います。-ーー私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ,私の値段とは釣り合わない」(朝日文庫『傲慢と善良』辻村深月 より抜粋)
また,こんなふうにも言っています。
「ささやかな幸せを望むだけ,と言いながら,皆さん,ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる,こないの感覚は,相手を鏡のようにして見る,皆さんご自身の自己評価額なんです」(朝日文庫『傲慢と善良』辻村深月 より抜粋)
これらの言葉は私にがぐさっと刺さりました。気づいていたけれど,敢えて言葉にせず人を好きになることを綺麗事にしたかったのかもしれません。
純粋にその人を想い続けること,良いことをし続けるのは善良ではあるけれど,この人は私に見合う男・俺にふさわしい女と思う傲慢さを抱えているんだと思います。
その善良さと傲慢さは,一目でわかるものではありませんが,態度や言動から滲み出てしまうもの。だから,恋愛や結婚は綺麗事では終わらないのかもしれませんね。
まとめ
現代社会だからこそ抱える恋愛や結婚に対する悩み,それを消さずにはいられませんが,人を愛することができるからこそ,人は成長し人生を発展させ,誰かを幸せにすることができるのです。
『傲慢と善良』はフィクションではあるけれど,多くの人の心に刺さる,ある意味ではノンフィクションな一冊。もし,この記事を読んで興味をもっていただけたなら幸いです。Amazonでも購入できるので,よければ下記をクリックして,是非あなたの目で物語の終結を見届けてください!
ここまで読んでいただきありがとうございました。