読書の習慣が薄れていた頃,本屋でこの表紙と帯のキャッチコピーに惹かれ,手に取っていました。

呉勝浩さんの『爆弾』(講談社)です!
サスペンス小説は,序盤の謎めいた状況から,話が折り返すにつれ,事件や犯人,登場人物の全容が明らかになっていく興奮を味わえるものだと改めて実感しました。
これは考察ではなく,ネタバレなしの感想ですので,そちらは悪しからず。
①あらすじ
スズキタゴサクと名乗る中年男性が,野方警察署に連行されてきました。腹も出ていて十円はげが目立つ,なんとも小汚い男です。
連行された理由は,居酒屋での無銭飲食と自販機の器物破損。
好きな野球チームが試合に負けた腹いせだそうです。
なんてことはない,ただ酔っぱらいがただ不祥事を犯しただけのことでした。
取り調べ中にスズキはこんなことを言うのです。
「私,霊感がつかえましてね。ここから三度,爆弾がどこかで爆破します」

霊感が使えるなんで話,誰が信じるでしょうか。
しかし,スズキの言葉の1時間後に,爆弾が都内の廃ビルで爆破します。
被害者は少なかったですが,それを皮切りに,取り調べ室でスズキタゴサクと警察のゲームが始まります。
警察も多くの要員を使って爆弾を探したり,本庁から送られた刑事が取り調べをします。
ただの爆弾魔かと思っていたら,スズキが提案したゲーム「九つの尻尾」の中で,ある元警察官の名前が挙がったところで,物語は加速していきます。
「それは,ハセべユウコウですか?」
それは,過去に不祥事を起こして警官をやめ,自殺をした警官の名前でした・・・・・。
②この作品の魅力
簡単に表すと,人間独自がもつ醜悪さに,警察としての正義をもつ警察官が立ち向かう勇姿だと思います。

登場人物には,無論多くの警察官が出てきます。
出世をするために成果を上げようとする若い警官,本庁から送られた優秀な警官,飄々としているが謎を解き明かそうとする警官,見切り発車で行動力で現状を変えようとする警官。

それぞれの人物に,警察官としての誇りをもちつつ,いち人間として混沌とした本音があり,それがあるからこそ爆弾魔(と思われる)のスズキタゴサクに翻弄されてしまうのです。
スズキは,「九つの尻尾」という質問をしあって相手の心の形を当てるゲームの中で,爆弾がどこにあるのかヒントを与えています。
私にはそれを当てる知識がないので,小さな考察をもちながら読んでいましたが,次はどこが爆発するのか,警官たちはスズキが出したヒントを考え爆弾を見つけることができるのか,ページをめくるたびにドキドキしてしまいました。
時には的外れな推理を警官がしてしまいますが,徐々にスズキの爆弾に近づき,警察の正義が体現できるのではと応援もしてしまいました。
スズキタゴサクという人物も,私は魅力を感じていました。
終始,取り調べ室を動かずに警官を楽しくゲームをしています。
初めは,冴えない中年男性で自分を卑下する言動が多く,挙動や容姿から少し可愛げを覚えていました(笑)
しかし,物語が進むにつれて,スズキがもつ「悪」の本性が顕になっていき,印象は一変,世界の破壊を望む凶悪な爆弾魔となっていました.
ただ,そんな爆弾魔だからこそ,人間が本来もつ醜さや卑しさがはっきりと描かれていて,スズキを知れば知るほど物語に没入も出来ました。そして,それは本当に悪なのか?と自問することも出来ました。
だからこそ,警察がもつ「正義」と爆弾魔が体現したい「悪」がぶつかり合う様に息をのむ展開でした。
③まとめ
いかがでしたが?
このような展開が読者をハラハラさせ,早く次のページをめくりたくなりました。
私がとった一冊が呉勝浩先生のサイン本だったのがまた嬉しく,愛読する1冊となりました。
この記事を読んで,読みたくなった方は,是非店頭でも通販でもいいのでお手をとってください。
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